キャベツの朝
音楽はだいたいなんでも聴くし、自分の好みの音楽に出会うと、堪らなくうれしい。
なかでもとくに、季節やある特定の時間帯だとか景色だとかを思わせる曲には惹かれる。
その日、その時でぜひ聴かなければと。自分が思うイメージの中で音を楽しむいつか、を想像して、もう待ち遠しくてしかたなくなるのだ。
一日の中でどの時間帯が好きかと言われれば、間違いなく朝だと答える。
終わりと始まりがものすごい早さで訪れる時間。
そのせわしなさも、でもどこか夜が抜け切れていない空気感も好きで。
大好きな朝の時間にきく音楽も、やはり特別なもの。
朝ごはん。
冷たいフライパンがコンロの火で熱され、油と出会ってぱちぱちと音を立てるのを聞きながら
卵が軽やかな音をたてて割れて、そのまるいフォルムが一瞬にして崩されるのを見ながら
お気に入りの曲に、じんわり温かな気持ちになる。
休日の朝の台所特有のゆるゆるした空気感のなかで、自分の思う朝ぴったりの音楽に浸りつつ、のんびり包丁のリズムを刻んでいく
その時間がたまらなく好きなのだ。
不規則な仕事をしていると、大好きだった朝を過ごせる時間は本当に限られている。
だから今日のようにゆったりと朝を迎えられる日には、前日夜更かしをしても嬉々として早起きをする。
台所の窓を開けて、先日大家さんから頂いた大きなキャベツをまな板にのせる。
窓からの朝日を受けるキャベツの葉は、柔らかな黄緑。包丁がきらりと光って、繊維をたちきる瞬間に瑞々しい音と香りが立つ。
もくもくと千切りをしているなかで考えるのは昨日久しぶりにやってみた裁縫のこと。あの無心になれる時間、けれど何かを新しく生産できるひととき。
そういえばいつか読んだ本のなかで、恋に不器用な男性が編み物にはまるという話があったなとふと思い出す。何かに取りつかれるように編みまくっていた男性のお話を振り返りながら、いまならなんとなく、彼が編み物にはまった理由がわかるなと思った。
手元では包丁が単調な動きを繰り返して、でも一枚の葉っぱは細いせんぎりへと変わっていく。
編み物も裁縫も千切りも、なんだか似ている、そんな気がした。
そういえば、今日はおすすめの朝の音楽を紹介する予定だったというのに。
朝のゆるゆるな空気のなかで、すっかり当初の予定すら忘れてしまっていた。
恐るべし、朝。
けれどそれでこそ、わたしの大好きな朝である。
ではでは千切りキャベツを冷蔵庫にしまったところで
遅ればせながらおすすめの朝の曲を。
Beatnik Sessions - Lucy Rose - All I've Got - YouTube