川沿いを歩く
午後8時。
少し湿った秋の風が吹く中、川沿いを歩いていた。
ふと斜め上を見遣れば、モノレールが頭上を過ぎていくところだった。次第に暮れ始める藍色の空に、モノレールの丸いフォルムが溶けていくようで
漫画「銀河鉄道999」のなかで、列車が夜空に消えていく一コマを思い出した。
目に捉えたモノレールの窓、あたたかな蜂蜜色の光を背景に、そこに見える人、人、人。
今日は土曜日。
きっと、休日出勤のサラリーマンも、デートをしているカップルも、みな日暮れのこのひとときに、なにかしらの思いを抱くのだろう。
いじわるな上司の小言、今日も可愛かった彼女の笑顔
明日を思う憂鬱さと、家で待つぬくもり
暮れる藍色に包まれて、それぞれがただひとつの場所へ向かう。
道を進めば、猫が数匹、道端からひょいひょいと顔を出した。
ある猫はわたしの足に体をすりつけ、ある猫は目が合っただけで逃げ出す。生理的な理由で嫌われるのは、まだわかりやすくていいなとすら思った。
理由づけがあるほうが、傷つく確率が高い気がする。
ふと目を向ければ、目の前の横断歩道を渡りきった向こう側
車にひかれたのであろう黒猫が、一匹横たわっていた。
通り過ぎる車の眩いライトが、横断歩道の白線と、黒猫の背を照らしていた。その小さな背中は、ぴくりとも動かない。
数メートル先では、青信号が点滅していた。
信号が赤になる。横断歩道の前、わたしは足を止めて白線と黒猫を見つめた。
人である私は
この白線に、赤信号に、足を止められる。
抗えないその不自由さに生かされている。
黒猫は、人が作ったルールに外れたその瞬間、その一生を終えたのだろう。最後に残った記憶はなんだったのか。それは考えるだけ辛い作業に思えた。
社会の便利さと不自由さは、ぎりぎりのところで均衡を保ち
人は小さな箱のなかに収められて、暮れゆく藍色の中に溶けていく。
どこかちぐはぐな思いを抱えたまま、それでも日々は進んでいく。
信号が赤から青に変わり
小さな子供が、目の前の横断歩道を手を挙げて渡る。
愉しげな子供のその声を、黒猫は聞くことができない。
おなじ命でもこうも違うことに、やはり胸は痛くなった。
不自由さに救われながら横断歩道を渡りきった私は、
どうして人に生まれたんだろう。
そんな果ての無い疑問を浮かべたりする。
それでも、緩んだ靴ひもを結びながら目の前の道を歩いていく。
ひとり、川沿いを歩く。
闇が訪れて、ネオンが眩さを増す。
景色は変わっても胸は痛かった。
黒猫は、闇に溶けただろうか。
自分の影すらも侵食されていく闇のなかで、
あの小さな命はそうであってほしくはないと。わけもわからず、強く思った。
13フレットのオルゴール/Ayumu Nishimura西村歩 - YouTube