ふたつの世界
よく私なんかと結婚しようと思ったものだ。
メガネの奥の、これでもかと細められた目を前に、ときどき思う。
18歳から始めた一人暮らし。一人旅が好きで、一人ライブが好きで、一人ご飯が好きだった。
1Kのアパートは、私にとってはささやかな城みたいなもので、不器用なくせにDIYという魔法に騙されて、随分いろいろと変なものを作った。呆れるほど、楽しんだ。
転機が訪れたのはなかなか突然で。最初はかなり心配したものだったけれど、思ったよりも他人と時間を共有することは楽ちんで、難解だった。
「どんなに仲が良くたって、所詮他人同士」という概念は最早ポリシーみたいに思っていたのに、私は自分が思うよりずっと、欲深い人間だったみたいだ。
けれど何度すれ違って、ぶつかり、やっぱり一人のほうが楽だったなぁなんてぼやいたとしても。
外を歩くときには律儀に車道側を歩きたがる彼を、きっとほんとうの意味では憎めない。
疲れ果てて帰宅すると、目をしょぼしょぼしながら笑う彼がいる。そろそろ30歳、好きなものは、ビールとラーメン。
単純で、難解で、いとおしい、日常。