ありをりはべり

日常のひきこもごも

ハムチーズサンド

 

雑踏の中にいると、次第に吐く息が細く長くなっていく。吐き出された生暖かい自分の体温と、見知らぬ誰かのおしゃべりとが混ざり合って。それが、私の右前を歩く女性の肩、見たこともないような鮮やかな花柄の上をすべてって、コンクリートの地面に吸い込まれていく。

この熱と声と、揺れる影の中に埋もれる、と思うし、どこかで埋もれたいと思っている。

特別になりたくて、姿を消したくて、どっちでもないし、どっちでもある。

 

漠然とした不安を持っている状態というのが、一番嫌いだ。何に一番困っているのかと聞かれても、自分でもわからない。

北朝鮮のミサイルか、なかなか治らない母の謎の体調不良か、こじれ始めている職場内の人間関係か。はたと数えればきりがないということに気付く。昔から優先順位を決めるのが下手くそである。もっとずっと楽天的に生きてこれた筈なのにと、ネガティブな自分にがっかりする。

いつも笑っていろと、弱音を吐くなと、誰に言われたわけでもないのに、なぜ無理に口角を上げるのだろう。セクハラに耐えながら女性に生まれたことを後悔したり、そこかしこに散らばる理不尽に、立ち向かえない自分に嫌気が指したり。私はいったい何と戦っているのか。

 

だが、この生き辛さがなければ、美味しいものも本当に美味しいと感じられないのが私で。

いつかは本当にコンクリートの奥に消えてしまう身なのだ。多少の間はMに転身してやってもいいではないか。否、ほんとはちょっといやだけども。

まぁ美味しいご飯があれば、それでいいだろう。

 

お気に入りの店の、奥の二人席。無心でハムチーズサンドを頬張って、うまいと一言、心の中で。このとき最上のしあわせを頂きながら思う。

 

 

 
ふくろうず「ごめんね」