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ありをりはべり

日常のひきこもごも

夕日とカレーライス

 

いつのまにだか、料理は私で、洗濯物は彼の担当と暗黙のルールができている。

けれど私の仕事が忙しいときは、毎度しっかりごはんが作れるわけではない。その日もやはり私は残業確定で、昼頃には帰る予定が夕ごろになりそうだった。

連絡すると、俺だって料理が全くできないわけではないから、たまにはお願いしてくれと言われたから、カレーの材料のじゃがいもとにんじんの皮むきをしておいてと頼んでみた。

 

疲労困憊で帰宅し、早速キッチンに行きまな板の上を見れば、ところどころ皮が残ったままのいびつな形のじゃがいもと、にんじんがひとつずつ。

 

ぽかんとする私に、おろおろする彼がいて、ダメだった?と聞く。

こらえきれずに笑って、これじゃあ少し足りないかもねと言ったとき、むくれてみせるものだから、また笑ってしまった。

 

テレビからは夕方のニュースが流れていて、明日は雨だと伝えている。窓の外は美しい茜色だけれど、これは前兆なのか。

テレビ画面の雨マークを見遣っても、空がきれいだねぇとそれだけ言葉を交わす。

自分なりに一生懸命やってみたのに笑われた彼は、まだ若干不服そう。

 

一口サイズになった、元いびつな形のじゃがいもがぷかぷか浮かぶカレーは、いつもより少しだけおいしい気がした。きっとそれは、終始笑って食べていたから。

 

足りないものはあって当たり前で、それでも互いに少しずつ空いた穴を埋めて、どうにもならないときにはまた考えれば良い。

家に帰れば貴方がいて、じゃがいもの皮むきもうまくはない、不器用なその手で、私の頭をくしゃくしゃと撫でる。そんな日々を、これからも紡いで行けたら。

 

夕日が薄い綿のような雲に沈んで、東のほうから藍色が滲み出す。

数種類のスパイスと、たまねぎの甘さがほわりと香る夕食の席。消えゆく間際の橙と檸檬色を見つめて、カレーライスと夕日は似ていると、ぼんやりと思った。

 

 


夕まぐれ 寺尾紗穂