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ありをりはべり

日常のひきこもごも

僕の娘は朝青龍

昨年末頃から、通う美容室を変えた。
特に理由はなく、暇をもて余していたときになんとはなしにホット○ッパービューティーで検索した結果だった。
あんなきらきらしたピンク色のサイトを開けるのは久しぶりで、最初は何だかいけないことでもしている気になってしまった。きっと流行に弱い女性ならこの気持ちを分かっていただけるはずだ。

その美容室は、すこし寂れた住宅街の一角にあり男性オーナーが一人で切り盛りしていた。
キラキラしたサイトの背景から、店内写真のレトロさが絶妙に浮いていてそこが決め手だった。

予約をし実際に行ってみると、店はやはり写真通りの、美容室というよりは理髪店みたいな言葉が似合う古きよき建物だった。
しかしなによりもオーナーが独特なキャラクターだったのが印象的だった。

美容師というと、つばの長い帽子を被っていたり、ファッション雑誌からそのまま出てきたような格好をしているもんだと思っていたが、オーナーは全くそんなものを纏っていなかった。
もさっとした黒髪に、くたびれたシャツにジーンズ。よれよれのエプロン。
何だかもくもくと家庭菜園や園芸などをしているのが似合いそうだ。

予約していた者です、と伝えると、もそもそとじゃあどうぞ席にと告げられ案内される。

鞄は置き場がわからなくて、席についても膝に抱いたままだったのだが、特になにもいわれなかった。けれど上着はハンガーにかけますかと言って貰えた。
コーヒーですと言われて出されたのは冷たい麦茶で、カットのあと顔にかかった髪の毛を取りたいというとブラシと手鏡を渡された。
予想外のセルフサービスに動揺し、すこし吹いた。

けれども思いの外、仕上がりは自分の想像していた以上で、ケアの方法も細かく教えてくれた。

最後にはここは美容室なのに「なるべく自分でケアできるものはしたほうがいいっすよ、美容室は高いですからね、美容にかけるお金は減らせるとこは減らしたいじゃないですか」等という。

それを美容師さんが言ってしまって良いのですか、と聞くと「だって自分が客ならそうしますからねぇ」とぼんやり言葉にしたので、いよいよけらけらと笑ってしまった。

基本的にぼんやりとしているが、もったり続くトークからはさりげなくきつい毒舌も飛び出す。

実際にカットしてもらったあとの満足感もそうだが、なにより独特のキャラクターに惹かれ、気づけば通いだしてもうそろそろで5ヶ月ほどだ。


先日など、最近オーナーには長女が生まれたとの話になり。それじゃあいま可愛くて仕方ないんじゃないですかと返すと
「いやぁ、でもまだ赤ちゃんですから。もうちょっと大きくならないと可愛い、可愛くないはわからないですよ。いまは朝青龍ってかんじです」とばっさり言ってのけて、また盛大に笑ってしまった。
Facebookや、Twitterや書籍などでイクメンが取り上げられる今、こんなにも堂々と娘を朝青龍と言える人がいたとは。

自分自身も接客業なので、仕事中は相手に対して失礼のないようにと気を遣う。もちろん何気ない会話でも、ネガティブな言葉は出さぬようにしている。

けれども客として店員を見るとき、お世辞やうわべだけの態度ではなく本当にそのとき思っていることを伝えてもらえたら。
こうなりたい、あれがほしいという具体的なイメージを持っているものにとってはその正直さは吉とも出るのであろう。

難しいバランスだが、嘘と真実は絶妙な塩梅で混ざれば笑いにもなれる。


娘を朝青龍とはいえないかもしれないが。
たまに逃げたとしてもやはり、真実に向き合うことをやめてはいけない、と思った。