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ありをりはべり

日常のひきこもごも

私たちにハードルなんてない

4日間の連休がもらえ、なんとなくまたもや東京に行くことにした。とはいってもなんだかんだで約1年ぶりくらいにはなる。

 

東京には18年の付き合いのある友人が住んでいるのだが、もっぱらこの旅の目的は彼女に会うためといっても良いだろう。

 

 

友人は高校卒業後服飾の専門学校に行き、その後アパレル業界に入った。

話を聞いていると、服のことをあまり知らない私でもわかるくらいの有名ブランドの店に勤めていたし、それ以外にはジュエリーやらバックやらのやたらお高い店を転々としていた。

 

友人は綺麗だ。東京は美人が多いなといくたびに思うけれど、彼女は雰囲気のある美人で、なんとなく人の目を惹きつける。私など、新宿だろうが渋谷だろうが一人で歩いていても一向に一声もかけられないというのに、友人と歩くとほぼ100パーセントの確率でナンパされる。あそこはナンパされる所だよ、という人がいたけれど、じゃあ声をかけられなかった私はなんなのだろうと思う。

答えはあまり考えないことにした。

 

このそろそろ20年来の付き合いに突入しようとしている友人だが、とにかく恋愛面で運がない、というより幸せな選択をしない。

高校の頃から専門学校、そして上京してしばらくまで付き合っていた彼氏なんて「別れるなんていったら、いますぐここで死ぬ」というような人だったし、おまけに収入のないバンドマンだった。すったもんだの末やっとその男と別れられとたと思ったら、その次「この人は大丈夫だと思う」と打ち明けれた恋の相手は高校の頃の先輩で、兄弟からお金を借りながらやはり働かずプロを目指すバンドマンだった。

 

「デートには行くけど一向に進展がない」と悩む彼女に「いや、まずもうバンドマンはやめよう…」と切実に訴えた昨年冬を経て、2015年秋。

「久しぶりに、ちゃんと好きって思える人ができたの」と話してくれた相手は、バイト先で出会ったという同じバイト店員の30台前半男性。

 

「バイトのほかに…なんか仕事してるの?」と恐る恐る聞いてみると、きらきらした笑顔で「スタジオミュージシャンなの!」と答えた。

友人「こないだ私に話してくれたんだけど、ほんとはスタジオミュージシャンだけで食べていけるんだけど、店長にたのまれて仕方なく私がいる店舗ともうひとつの店舗でバイトかけもちしてるんだって…」

このときがやがやと騒がしい居酒屋でコークハイを飲みながら、なぜか友人のその声は響くように聞こえた。

「優しい人だよね…」と話した友人に、もう私は何も言えなかった。

 

私と友人の恋愛話といえばいつも「どうしたら幸せになれると思う?」か「でも幸せになるのってなんか怖いよね」というわけのわからない逆方向のベクトルで締めくくられる。

彼女となぜここまで長く関係が続いたのかというと、どこかで共通する感性があって、そしてそれに抗う理性とがいつもせめぎ合っていたからだと思う。

多分これは間違ってる、けど幸せ。そんなかんじで、わたしと彼女は同じタイミングで相反する感情がぶつかりあうのだ。

 

今お付き合いしているパートナーとの初デートのとき、彼がお店に入るときにドアを開けて待っていたり、さりげなく車道側を歩くことに、私はリアルに鳥肌が立った。

きゅんとするとかそういうレベルではなく、なんだか見てはいけないものを見てしまったかのような堪らなく後ろめたさを感じる瞬間だったのだ。地球上にこんな生物がいたんだ、というような驚きと事態のイレギュラーさにただただ、たじろいだ。

後日友人に自分の戸惑いを打ち明けたとき、彼女は言った。

 

「たぶん周りのみんなって、そういうことを当たり前に受けてるんだよ。デートには遅刻しないし、送り迎えしてくれるし、夜道心配してくれるし、体調気遣ってくれる、そういうのをさ…

でも、わたしたちってそれを当たり前と認識してないから、ハードルが低いんだよね…そしてきっと幸せになればなるほど、体験したことのない事態に恐れを抱くんだよね」

友人と私は過去の恋愛をしみじみと振り返り、

すぐ死んじゃうなんて言う人はだめだよね、ストーカーになるひとって付き合ってるときは案外冷たい場合もあるんだね、じゃあもう予想なんてできないんじゃん、どうしたらいいんだろうね…とぽつぽつと語った。

 

けれど、そもそも冷たい人を選んでしまうことへの反省については語られず、

もうバンドマンはダメだよ説すら登場しなかった。

 

金曜の居酒屋は騒がしかった。みな赤ら顔で、たのしげに笑っていた。

意中のスタジオミュージシャンについて語る友人もまた、少しほほを染めて笑っていた。

 

これでいいのか、いや、きっとよくない。

互いに漠然とでも答えは見つけているけれど、私と友人はひたすら飲み、くしを食べまくった。

 

「幸せになりたい、でも幸せになるのが怖い」

 

まちがってないか、こんなの。やっぱりその問いが胸をつつくけれど、毎食あんまんでも、その前は毎食冷凍餃子でも、住んでるアパートが古すぎてトイレのタンクに一向に水が堪らない不具合があっても、頻回に風呂場の排水溝が詰まって、そのたびに浸水しても、めげずたくましく生きる友人に、私は会う度元気をもらっていたりする。

 

友人は優しくて、強くて、そして美人だ。けれど惚れっぽくて、たまに弱くて、さみしがり屋で、そしてそして、平沢進が好きで、孤独のグルメの俳優がタイプだと話す20代女性だ。

 

 

 

やっぱり少し胸が痛むけれど、二次元にはまり抜け出せなかった昨年に比べればましなのかなって、そんなふうに友人を温かく見てしまう自分も。

 

 

やっぱりまだまだ相変わらず、ハードルが低いのかも、しれない。

 

 

 

 

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