ありをりはべり

日常のひきこもごも

影が射す

お昼ごはん、訪れたカフェ。
いつも座るカウンター席が埋まっており、テーブル席に座った。
窓から零れる午後の日差しが、木製のテーブルを優しく照らしている。

窓際に並べられた、猫の置物、数冊の雑誌と文庫本、桃色の花の一輪挿し。
お日様の光を受けて、それらに薄い影が射している。
置物も、本も、花も。
午後の窓際で、まどろむようにしずかにそこに佇んでいるように見えた。

テーブルに置いた車の鍵は、にびいろに光を帯びて影を落としている。


影は、表情のあるものはもちろんのこと
どんな無機質なものにも
見るものに哀愁を与えるものだと思う。


思えば、子供の頃は影が怖かった。
しらないもう一人の自分が日暮れと共に巨大になって、夜が来ればすべてが黒に染まってしまう。
逆光によって影が射すと、置物なんかはとても寂しそうな表情にみえて、途端に生き物ぽくなるその様子にまた怖さを覚えた。

体が大きくなり、心もすこしずつ強くなってゆくにしたがって
影への怖さは和らいでいった。

わたしはわたしで、かげはかげであることを
いつ気づいたのか、覚えてはいないけれど。


影はいつも無言でそこにあり、なにも傷つけ害しはしなかった。ときには見るものに哀愁を与え、鼓動のないものから息づかいすら感じさせる。
時間や季節、太陽の雲の隠れ具合にも左右される、その頼りなさと美しさ



影の存在にあらためて向き合う、午後の窓辺

今日の日暮れをすこしだけ、愉しみにする自分が居る。




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