女の子になりたかった
ワンピースが好きで、洋服屋さんにいくとつい見入ってしまう。
気付けば季節を巡るごとにコレクションは増えていく。
クローゼットの中並ぶ、様々な柄の、色とりどり。
…そういえば、ワンピースを着だしたのはいつ頃のことだったか。
クローゼットの前でぼーっと立ち尽くしながら
小学生のとき、いとこのお姉さんに可愛らしいワンピースをもらったときのことを思い出した。
とても嬉しくて、こんな可愛いものを着ている自分にものすごく照れたのを覚えている。でもたしか恥ずかしすぎて着て数分で脱いでしまったんだった。
結局そのワンピースは、それ以後一度も着ることはなかった。
中学にあがるまでの私は、お世辞にも女の子らしいとは言えない子だった。
四月生まれのせいなのか、同年齢の子に比べると身長の伸びがはやく、いつも列では後ろのほうで。
そしてなぜか男子に喧嘩を売られることが多く、流されるまま日々ポカスカやっていた。ショートの髪は赤みがかっていて、日にすけると茶色に見えた。いつもTシャツに短パンで、運動靴。掃除をさぼる男子を怒鳴りつけるけんかっぱやい奴。私はそんな子だった。
上の兄弟も男二人なので、私の勉強机には兄たちのゾーンに収まりきらなかったガンダムとゴジラと週刊少年ジャンプがいつのまにか置かれていた。
…だけど、本当は小さいころからおままごとだってしたかったし、可愛い洋服を着たかったのだ。
けれどおままごとがしたくても 家にあるのはシャアザクとゴジラ人形。
可愛い洋服が着たくても、タンスの引き出しにあるのは兄のおさがり。
そしていつのまにか私は喧嘩ばかりする女の子に成長し
それが不本意でも、もう今更女の子らしくするなんて恥ずかしすぎてできなくなっていた。
バレンタイン。意を決して好きな男の子にチョコをつくった。あげることが恥ずかしくて、ラッピングまでしたのに自分で食べてしまった。
いとこのお姉さんからもらったワンピース。親や兄弟から隠れてタンスの引き出しから引っ張り出しては、きらきらした気持ちで眺めて終わっていた。
中学へ進学すると同時に、それまで喧嘩ばかりしていた男子たちと離れた私は、一応元来人見知りなのでスタートからまごつき、大人しいひとという位置になった。これでバレー部とかバスケ部とか本気でやっていたら、もうこじらせすぎてこの年まできていたかもしれない。
不器用でよかったなぁと思う。
女の子らしくなりたくって、でもなれる自信はなくて、だけど頑張りたくて。そわそわびくびくしながらも、あれこれと少しずつ手を出していたあの頃。
伸びた黒髪を触りながら
そういえば髪を伸ばすのさえ一大決心だったんだと思いだして
胸の奥が、だいぶかゆくなった。
表現は自由だと思うけど、あんまりそううまく行かないときもある。でもだからこそ、それが叶ったとき嬉しいんだよなぁとしみじみ思う。
クローゼットで輝く色とりどりのワンピースを見て、やっぱり心は、まだ少しだけくすぐったい。
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