ハダ色の日々
兄のお嫁さんに子供ができたらしい。
このところ体調が悪そうな様子が伺えていたので、なんとなく感づいてはいた。
それでもやはり心配もあって、病による不調ではなかったことをほっとすると同時に、じわじわと心の中に温かさがうまれた。
大切な人に大切な人が出来る。
なんて素敵なことだろう。
兄のお嫁さんは、私のことを妹のように可愛がってくれるとても素敵な女性だ。いつも「お兄さんは、私にはもったいない人だよ」とにこにこ笑っていた。
そして、以前は短気でやたら怒ってばかりだった兄が、お嫁さんの前では目元をゆるゆるにさせ笑っているのを見て、愛情ってのはすごいなぁとただ驚いた。
私たち家族では引き出せなかった表情を、一人の女性がごく自然に表したのだ。
この出会いに、どう感謝を伝えればいいのか。
まだ、言葉が見つけられないでいる。
長男として兄弟の先頭にたつ兄は、親からも親族からも小さな圧力を受けて育った。加えてマイペースな次男と我儘な妹という組み合わせの下の兄弟に、きっと手を焼いていただろうと思う。特に私はやんちゃな妹だったので、頭が上がらない。
兄は、辛いことがあっても決して弱音を吐かず、泣かないひとだった。そしてだいたいは不機嫌そうに何かに怒っていた。
けれど私たち兄弟が本当に困っているときは、しょうがないなと言いながら、求めていた以上のことをしてくれる、そんな優しい人だ。
いつしか、責められたり期待にこたえようともがいたりであまり笑わなくなった兄の、心をほぐしてくれる女性があらわれたら。
私はずっと、そう思っていた。
そんなときにお嫁さんを紹介され、とてもとても嬉しかった。
「予定日は3月、誕生日はひと月違いだね。一緒だと良かったなぁと思ったんだけど」
私の誕生日が4月であることを知っているお嫁さんは、そう言って笑っていた。
この柔らかい空気を、兄はずっと求めていたのかもしれない。
人の手を、目を、声を介して、ぬくもりは連鎖していく。
私の大切な二人に、またひとつ幸せが生まれる春。
そのときには、お嫁さんより兄より泣いてしまうかも。
そんな心配を出来ることに、また胸があたたかくなった。